モラハラ脱出物語<なつこさん・30代・女性>②

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小さな変化の波

あなたは、少々注意力散漫なんですかね。
試用期間終了時の面接で、薄笑いを浮かべる先生からそう言われました。1ヶ月半前に、切手を貼り忘れて郵便を送ったことを言っているのです。
体調でもお悪かったんですか。あの時は。
返答に困り黙る私に、先生が納得の行く回答を求めます。
確かに、微熱はあったかもしれません・・・。
仕方なく、そう答えました。
まあ、女性ですからしょうがないですかね。
先生は、また、ため息をつき目をそらしました。
手のひらにまで汗をかき、体中が硬直してきりきりする感じになりました。
面談後、本採用となったのに、気分は晴れませんでした。
35歳。健康面でいろいろ変化がある年齢なのでしょうか。職場が変わってまだ間もないからなのでしょうか。
同じシャンプーを使っているのに、このごろ髪の毛がばさばさになってきました。肌が荒れるようになりました。以前に増してアレルギーがひどくなりました。風邪は治りづらくなり、よく発熱するようになりました。咳が出ると止まらなくなりました。休日はあちこちの病院に通うようになりました。
世間では年を取ると我が強くなるというし、今まで働いて培ってきた自信というものも、根拠のないものだったのかもしれない。だって、切手も貼れない自分なのだもの・・・、もっと細心の注意をはらって仕事をしなくては・・・、自分で自分を励ましました。しかし、何となく憂鬱な気分から抜け出せませんでした。

マイナス思考との戦い

「書類を止めるホッチキスの位置は、重ねたときのことを考えれば、少しずつずらして留めるのが常識ではないでしょうか」
「書類のパンチの開け方が揃っていませんね。ファイルの書類位置が揃っていません。パンチ穴がずれているのは、だらしがなく、甚だ不愉快です」
「昨日、あなたは、湯沸かしポットの電源を消さずに退社しました。なぜこのような重要なことに気がつかずに事務所から出られるのでしょうか」
朝、パソコンの電源を入れ、まず目にするのが、このような先生からのメールでした。
「コピーをするときは、すべてA4サイズに揃えるのが常識です。今どきB5B4サイズでコピーするなど信じられません」
このメールを受信してから、コピー機に向かうと動悸がするようになりました。誤って「自動用紙モード」でB5のままコピーしてしまうと、手が震えるようになりました。たかがコピーに、いったい何を動揺しているのでしょう。
退社後、帰宅間際の携帯電話に、メールが入ることもあります。
先生からのメールだと、自然に胸がドキッとしてしまいます。
「留守番電話の設定をされずにお帰りになったのでしょうか」
忘れてしまったかも知れない。思い出せない・・・。首筋がきりきりと緊張していきます。先生の、人を見下すような冷たい表情が目に浮かんできます。
「申し訳ございません」
反射的に謝りのメールを入れながら、夜9時過ぎの道を引き返し、また職場に向いました。電車に乗って、事務所に到着するまでには少なくとも1時間はかかります。
暗いビルの階段を駆け上がって、事務所の鍵を開けました。先生はいませんでした。留守番電話の赤いランプは、正常に点灯していました。
「ただいま事務所に戻りましたが、留守番電話の設定は正常にされていました」
メールを送っても返事はありませんでした。
朝になってから、また、メールで注意を受けるのかも知れない。気分が重くなりました。
朝が辛い。
夜も辛い。
勤務中も、まるで息をしていないようで、辛い。
ひとり事務所で、しゃがみこんでしまいました。

怒りの矢が突き刺さる

この日を境に、私は、先生と目を合わせることができなくなってしまいました。
先生が話し出すと、耳鳴りがするようになり、何を指示されているのかますます分かりづらくなりました。指示を聞き返すことも多くなり、そうすると先生から露骨に不快な表情を向けられました。私の態度は、先生への反抗と取られてしまったのかも知れません。先生は明らかに不機嫌になり、攻撃的になって行きました。
書類などは、バサッと音を立てて投げつけます。不要な紙を、大きな音をたててビリビリと破り、クシャクシャに丸めて、ゴミ箱に叩きつけます。書棚から倒れた本を、床に投げつけます。
事務所に、「あ~あ」というため息と「クソ!」「バカ!」「バーカ」「この野郎」「死ね!」などの独り言が響き渡るようになりました。
すべての独り言が、私に向けられているように感じました。
お電話を取り次ぐと「はあ?」と聞き返され、白目をむき出しにするような嫌な顔を向けられます。面前で舌を出します。
ある日、先生は、来客の態度が無礼だといって狂ったように怒鳴られ、その後もなかなか怒りが静まりませんでした。後輩という方からのお電話を取り次ぐと、電話を叩き切り、あいつは俺を馬鹿にしているといって、逆上しました。
先生は時々、怒りの感情の押さえがきかなくなります。
いくら相手の態度が無礼でも、馬鹿にしているといっても、それでもやはり、ここまで感情的になるのは限度を超しているのではないかと不安に感じる瞬間が増えてきました。
通勤電車の社内吊り広告で「逆上する上司たち」という雑誌の特集記事を見つけ、さっそく読みました。「ダメ上司に気をつけろ」。部下らを攻撃するのも、事細かな管理をするのも、思いやりがないのも、みな、それは上司がダメな人間だから。ダメ上司を操縦するのは、部下自身である。うまく対策を講じてこの嫌な思いを克服し、仕事上のスキルを上げていこう、ということが書かれていました。
私の仕事は、先生の秘書。
秘書としての仕事がきっちりできていれば、こんなに先生の感情も高ぶらずに済むのかも知れない・・・。これは私の仕事ぶりが至っていないからなのかもしれない・・・。
私は、秘書としてのスキルアップをしていこう、と、心に決めました。
退社後に書店に寄り、ビジネス本や自己啓発本を探すことが日課になりました。
先生やお客様に誤解を受けないような身のこなしや言葉遣いの勉強が足りないのだと信じました。
メールばかりのやりとりで気詰まりになるのだったら、自分から先生に声をかけて明るい職場を作ろうと考え、勇気を振り絞って話しかけるようにしました。
やはり、部下という者、声をかけても無視されたり、冷たい反応をされたり、不機嫌にされたりするくらいで、いちいち傷ついていられないのだ、と思い、自分の弱さを反省しました。

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※プライバシー保護、キーワード説明のために、若干の脚色が施されています。

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