医師や看護師の離職や休職を予防し、皆が成長できる病棟づくりのために

病院の特殊性

モラル・ハラスメントの提唱者であるマリーフランス・イルゴイエンヌは、その著書の中で、「病院はハラスメントの温床であり、あらゆる国のあらゆる調査で、病院におけるモラル・ハラスメントの発生率が高い」と言っています。

彼女が、その理由として挙げていたのは、次のような項目です。

  • 複雑な指示系統
  • 臨機応変が求められる仕事
  • 立場による意見の食い違い
  • ストレスの高い職場
それぞれ簡単に説明していきます。

まずは、病院は指示系統が複雑であるということ。つまり、一方では、医局と事務局という二重の権力構造があり、また、看護師にとっては、医師と師長による二重の指示系統がある、というようなことから、人間関係が複雑になりがちで、それがハラスメントに繋がる可能性が高いということ。

そして、問題を複雑にしているのが、医療サービスという仕事内容が、画一的なものではなく、臨機応変に対応しなくてはならないもので、これだけすればよい、このようにしさえすればよい、というものがないということ。

これは、工場などの製造現場においては、比較的、モラル・ハラスメントが少ないという事実からも説明できるそうです。つまり、製造現場では、決まったとおりに仕事をするべきもので、それさえ守っていれば、仕事内容に口出しをされることはあまりないからです。

しかし、病院では、医師、看護師、事務方などの立場の違いから、意見の食い違いが起こることも多く、その過程で、医師による報復的なハラスメントが行われる原因が生まれることも多いようです。反対に、看護師が協働して、医師に対してモラル・ハラスメントをすることもあるようですし、医師同士、看護師同士の対立から、モラル・ハラスメントが発生することもあります。

最近では、医療現場におけるスタッフの、肉体的、精神的な負担は確実に増大しており、ストレス度の高い職場であることが、上記の問題をさらに促進させてしまう要因となっています。例えば、昔と比較すると、現在の病棟では重病患者の割合が圧倒的に増えていたり、取り扱いを覚えなければいけない機器が複雑になっていたり、医療過誤の訴訟リスクのプレッシャーが強くなっていたりしています。

ストレスは人を攻撃的にさせるものであり、モラル・ハラスメントの発生原因の多くが、ストレス反応としての攻撃性によるものと私は分析していますが、このことについては、後ほど詳しく説明します。

さらに、私が、特に特徴的だと思うのは、看護業務が、画一的でなく、臨機応変な対応が求められる内容であることです。

もちろん、看護マニュアルは存在するし、そのとおりに行うことが望ましいに違いありません。しかし、多くの看護師が、限られた時間と人数の中で、臨機応変に対応しているのが現実ではないでしょうか?マニュアル通りにやっていたら、何時になっても帰れないし、それどころか、緊急を要する患者さんへの対応が追いつきません。

トラブルや急変は重なるものなのです。

また、能力以上の仕事量を与えたり、誰もうまく対処できない難しいケースや患者を押しつけたりすることも可能です。

さらに、患者の利益を無視して、被害者に実際に職務上の失敗をさせた上で、それを繰り返し陰湿に非難する、そんなことが可能になる環境なのです。